COLUMN コラム

英語学習の敵か味方か、生成AI

2026年11月05日

 本コラムは、塾関係者の皆様へ英語教育や学習設計のヒントをお届けする連載企画の一環として、『塾と教育』2026年11月号に掲載された記事を転載したものです。

 今回のテーマは、生成AIが生徒にとって身近になった今、英語の授業や学習をどう設計し直すかです。

 生成AIは日常の場だけでなく、学習の場にも急速に入り込み、海外でも日本でも、利用のルールづくりが進んでいます。ただ、先生の管理外で生徒が個人で使う場面は、ルールだけでは管理が難しく、先生の意図どおりに使われるとは限りません。
 
 今回は、そうした状況を踏まえて、「生成AI時代の授業」を考えます。鍵になるのは、考える前に使うのか、考えた後に使うのかという使い方の違いです。

 授業内で何を確かめるのか。特にライティングの指導・フィードバックをどう設計するのか。生成AIに任せる部分と、授業で重視する部分をどう分けるのか。現場で役立つ指導設計と、生成AIとの向き合い方を整理しています。





生成AI利用に関する海外の動向と、現場から伺った話

 近年、海外の教育現場では、生成AIの利用に年齢の目安を設けるなど、新たな技術との向き合い方を整理する動きが進んでいます。日本でも、文部科学省が一律の禁止も義務付けもしない立場でガイドラインを示していますが、その主な対象が学校現場に留まっています。
 ここで私が危惧するのは、教員の目の届かないところで、生徒がChatGPTやGeminiなどの汎用生成AIを個人利用するケースです。わからないことを即座に聞ける利便性がある反面、得られた回答を検証せずに鵜呑みにしてしまうリスクも潜んでいます。学校や塾の現場を訪ねると、生成AIが生徒にとって想像以上に身近なツールとして定着しつつある現実に直面します。
 「最近は、感想文やライティング課題を宿題に出せなくなった」と話す学校の先生の言葉は象徴的でした。AIが出力したとしか思えない、不自然なほど整った文章の提出が相次いだため、成績評価にかかわる課題は、授業内にその場で書かせる形式へ切り替えたといいます。
 授業時間を圧迫するため、先生の負担は決して小さくありませんが、宿題が「生徒の書く力」ではなく「AIを使いこなす力」になってしまうのであれば、評価の場を教室の中に移すのは、理にかなった対応だと言えます。

 

授業内で「言語化」させる

 やや性悪説的に聞こえるかもしれませんが、今後は授業内で「確実に理解度を測る」ことの重要性がこれまで以上に高まります。ただし、単語の暗記や模試の点数だけを指すのではありません。授業内で「なぜこの答えを導き出したのか」「この英文はどのような構造になっているのか」を、生徒自身の言葉で説明させることも、重要な評価の一部です。
 その際、最終的な答えが間違っていても構いません。正解すること以上に大切なことは、自らの思考プロセスを言語化する経験が不可欠だからです。私自身、かつて授業の終わりに「できるようになったことシート」という振り返りプリントを導入していました。その日に理解したことと、次回の目標を生徒自身に書き出させるもので、理解度の確認と言語化を促すのが狙いです。他の講師や教室長とも生徒の理解を共有するのに大変役立ちました。生徒の説明が浅ければ、講師から質問を投げ返します。こうした双方向のやり取りが、生徒自身が学習の現在地を客観視するきっかけとなっていました。

 手軽に「正解が」手に入る時代だからこそ、授業内で自分の言葉を紡ぐというアナログな作業が、「AIが介入できない確かな評価の場」として新たな価値を持ち始めているのではないでしょうか。

 

使うタイミングの見極めが重要

 生成AIは、使い方によって、学びの質が大きく向上する生徒もいれば、考える機会を奪われるだけの生徒も出てくるでしょう。その分かれ目は、「自ら考える前に使うのか、考えた後に使うのか」にあると考えています。
 疑問点を深掘りしたり、自分の解釈の答え合わせとして活用したりと思考を伴う使い方であれば、AIは何度でも付き合ってくれる頼れる相棒になります。一方、考える前に手っ取り早く答えを得る手段にしてしまうと、「できた気」しか残りません。さらに、言語学習においてはAIの回答が常に正確とは限りません。文法説明やニュアンスが微妙にずれることもあり、リスニングやスピーキングの採点精度も学習の質を左右する懸念もあります。
 誰でも手軽にAIにアクセスできる時代だからこそ、適切な使い方をどうデザインするかは、現場の指導力に委ねられる部分が大きいと感じます。「考える前か、後か」、そして「得られた答えの検証」は、教育における重要な指針となるはずです。その一つの軸になりそうです。

 

ライティング添削は、フィードバックの「濃淡」がカギ

 その指針が、最も問われるのがライティング指導です。ある程度基礎学力のある生徒であれば、模範解答をそのまま見せるより、誤りの箇所の指摘やヒントに留める方が、力は伸びやすいと考えられます。自分で気づき、調べながら書き直す「試行錯誤の過程」が、そのままライティング力になるからです。
 一方、基礎的な語彙や文法が不足している生徒や初学者の場合は、わずかなヒントだけでは手が止まり、挫折を招きかねません。知識を持たない状態での思考は、あまり意味を持ちません。まずは模範解答を提示し、型を真似ることから始めさせる方が効果的です。
 つまり、フィードバックの「濃淡」は、生徒に「自ら考える機会」をどこまで残すかの判断であり、レベルに応じて変える必要があります。これは、先生方が日々の添削で経験的に行ってきたことです。
 ただ、汎用の生成AIを個人で使う場合、この調整は必ずしも行われず、毎回指示し直すのも現実的ではありません。学習の質を担保するためには、こうしたレベル別のフィードバック調整が、あらかじめ学習メソッドとしてシステムに組み込まれた「専用の教育アプリ」を戦略的に活用していく視点が求められます。

 

考える機会を、意図して残す

 生成AIが瞬時に答えを提示してくれる現代において、授業の重心は「正解を教えること」から「生徒の思考を引き出し、確かめること」へと確実にシフトしています。AIに任せられる単純作業や反復練習はシステムに委ね、対面授業では「自らの言葉で考え、説明する」と言う泥臭いプロセスをこそ大切にするべきです。
 生成AIは、すでに生徒の日常に溶け込んでいます。それをタブー視して遠ざけるのでもなく、思考を放棄して頼り切るものでもなく、存在を前提とした上で「理解を確かめる場の再構築」「フィードバックの濃淡の最適化」を図る。そうした指導のアップデートを、現場の実情に合わせて柔軟に進めていくことが、我々教育に携わる者に課せられた使命だと感じています。

 

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株式会社サインウェーブ

高度なAI技術をベースに、教科書準拠・英検®対策・入試対策に対応した
英語学習アプリ「ELST®」シリーズを自社開発。

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